親の介護が現実になったとき、「このまま同居を続けていいのだろうか」「別居という選択は許されるのだろうか」と悩む方は少なくありません。仕事や家庭、自分自身の生活との両立に不安を感じている方も多いはずです。結論からお伝えすると、親の介護のために別居を選ぶことは決して珍しいことではなく、状況に応じて現実的な選択肢のひとつです。ただし、何も考えずに別居を決めてしまうと、夫婦関係の悪化や金銭トラブル、親との関係悪化など、思わぬリスクを抱える可能性もあります。この記事では、親の介護のために別居を検討する際に知っておくべき基礎知識から、注意点、トラブルを防ぐための考え方までをわかりやすく解説していきます。
- ・親の介護で別居が選ばれる具体的なケースがわかる
- ・同居・別居それぞれのメリットと注意点が整理できる
- ・介護離婚や義務の考え方など法的な不安が理解できる
- ・後悔しない別居判断のためのポイントがわかる
目次
親の介護のために別居を考える前に知っておく基礎知識

親の介護が現実になったとき、多くの人が最初に悩むのが「今の生活を続けながら本当に介護ができるのか」という点です。同居するべきか、それとも別居という距離の取り方が良いのかは、家庭の状況や親の状態によって大きく異なります。ここでは、親の介護のために別居が選ばれる背景や、近年増えている「別居婚」という選択肢について、基礎から整理していきます。
別居はどんなケースで選ばれる?
親の介護のために別居を選ぶ人は決して少数派ではありません。むしろ、介護と仕事、家庭生活の両立が難しくなるほど、別居という選択肢は現実的なものとして検討される傾向にあります。特に次のようなケースでは、別居が選ばれやすくなります。
- 共働きで日中に介護の時間が確保できない場合
- 親が遠方に住んでおり、頻繁な通院や見守りが必要になった場合
- 同居すると配偶者や子どもへの負担が極端に大きくなる場合
- 認知症などで専門的な見守りが必要になった場合
厚生労働省の調査では、家族介護者の約3割が「介護と仕事の両立に強い不安がある」と回答しており、実際に年間10万人前後が介護を理由に離職している状況が続いています。こうした背景からも、自宅での同居にこだわらず、別居や通い介護、施設との併用といった柔軟な形を取る人が増えていることが分かります。
別居を選ぶ最大の理由は「物理的・精神的な距離を確保しながら介護を続けるため」です。同居をすると、生活のすべてが介護中心になります。食事、入浴、排泄、通院の付き添いなどが日常的に発生し、自分の時間がほとんど取れなくなるケースも少なくありません。その結果、介護うつや体調不良に陥る人も多く、長期的に見て共倒れになるリスクが高まります。
一方、別居を選ぶことで次のようなメリットが生まれます。
- 自分の生活リズムをある程度守れる
- 仕事を続けやすくなり、収入を維持できる
- 介護疲れによるストレスを軽減できる
- 第三者の介護サービスを導入しやすい
特に介護保険サービスを利用しながら「通い」で親の見守りを行うスタイルは、近年では一般的になりつつあります。デイサービスや訪問介護、見守りサービスなどを組み合わせることで、同居しなくても親の生活を支えることは十分に可能です。
ただし、別居には注意点もあります。急に体調が悪化したときにすぐ駆けつけられないことや、近隣との関係性が希薄になることで見守りの目が届きにくくなる点などは、大きなリスクになります。そのため、別居を選ぶ場合は、連絡体制や緊急時の対応方法をあらかじめ家族やケアマネジャーと話し合っておくことが非常に重要です。
また、別居は「介護を放棄すること」とはまったく異なります。物理的には離れていても、支援や見守り、金銭的な負担、意思決定などにしっかり関わっていれば、十分に介護に参加しているといえます。大切なのは、無理のない形で長く支え続けられる体制を作ることです。
このように、別居は逃げの選択ではなく、介護を継続するための現実的な選択肢のひとつとして位置づけられています。親の状態、自分の仕事や家庭の状況、配偶者との関係などを総合的に考えながら、最適な距離感を見つけていくことが求められます。
別居婚という選択は現実的?
親の介護がきっかけで、「夫婦は別々に暮らしながら婚姻関係を続ける」という別居婚を選ぶケースも徐々に増えています。別居婚と聞くと少し特殊な印象を受けるかもしれませんが、介護という現実を前にすると、決して珍しい選択ではなくなりつつあります。
別居婚が選ばれる主な理由は、介護の負担がどちらか一方に集中することを防ぎ、夫婦関係を維持しやすくするためです。例えば、妻が実家の親を介護するために実家へ戻り、夫は自宅で仕事を続けるというケースや、逆に夫が親のもとへ戻り、妻が子どもと自宅に残るといったケースもあります。
別居婚の大きな特徴は、「婚姻関係は継続しているが、生活の拠点が別」という点です。法律上は通常の夫婦とまったく同じ扱いとなり、扶養義務や相続の権利なども変わりません。そのため、夫婦としての責任を保ちながら、それぞれが必要な場所で生活できる柔軟な形といえます。
実際に別居婚を選んだ家庭では、次のような理由が多く見られます。
- どちらかの親の介護が長期化している
- 転勤や仕事の関係で同居が物理的に難しい
- 配偶者の実家との関係に強いストレスがある
- 子どもの学校や生活環境を変えたくない
特に介護においては、相手の親との関係性が深く影響します。義理の親との同居に強い精神的負担を感じる人も少なくなく、その結果、夫婦関係まで悪化してしまう例も現実には多く存在します。別居婚を選ぶことで、義理の親との距離を保ちつつ、夫婦の関係性を守るという考え方も成り立ちます。
別居婚のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 夫婦関係のストレスを軽減できる
- 介護に集中しやすい生活環境が整う
- 仕事や収入を維持しやすくなる
- 子どもの生活環境を急に変えずに済む
一方で、デメリットや注意点も存在します。生活費が二重にかかるため経済的負担が増えること、日常的に顔を合わせないことで夫婦のすれ違いが生じやすくなること、介護の状況が一方に偏りがちになることなどです。特に金銭面については、家賃や光熱費、交通費などが増えるため、事前に十分なシミュレーションが欠かせません。
また、別居婚は周囲から誤解を受けやすい点も見逃せません。「夫婦仲が悪いのではないか」「実質的に離婚状態なのではないか」といった見方をされることもあり、親族や近所との関係で気疲れしてしまうケースもあります。そのため、家族や親族には事前に別居の理由や今後の方針をしっかりと説明しておくことが重要です。
法的な面で見ると、別居婚であっても住民票の扱いや世帯の分け方、扶養関係の整理など、行政上の手続きが必要になることがあります。住民票を別にすることで各種手当の対象や税金の扱いが変わる場合もあるため、事前に市区町村の窓口で確認しておくと安心です。
別居婚が現実的かどうかは、「介護を抱えた状態でも夫婦関係をどう守るか」という視点で考えることが大切です。無理に同居を続けて関係が悪化してしまうよりも、一時的に距離を取ることで関係が安定する場合もあります。別居婚は逃げではなく、家族全体を守るためのひとつの生活設計として、十分に現実的な選択肢といえるでしょう。
親の介護で夫婦別居、住民票はどうなる?

親の介護をきっかけに夫婦が別々に暮らすことになった場合でも、結婚そのものが解消されるわけではありません。夫婦別居をしても法律上は「婚姻関係は継続したまま」という扱いになります。そのため、住民票の扱いについても「必ず分けなければならない」「必ず同じにしなければならない」という決まりはありません。それぞれの生活実態に合わせて選択が可能です。
住民票は「実際に生活している場所」に置くのが原則とされています。たとえば、妻が実家に戻って親の介護をしながら生活している場合は、実家の住所に住民票を移すのが基本となります。一方、週末だけ自宅に戻るような生活で、生活の拠点が引き続き自宅にある場合は、住民票を動かさずにそのままにする選択をする人もいます。
住民票を別々にすることで影響が出る主な点は次のとおりです。
- 世帯が分かれるため、世帯収入の計算方法が変わる
- 児童手当や各種手当の対象条件が変わる場合がある
- 国民健康保険や介護保険の負担額が変動する可能性がある
- 配偶者控除など税金の扱いに影響が出ることがある
総務省の住民基本台帳制度では、住民票は「実態に即して登録すること」が原則とされていますが、介護と仕事の都合で二拠点生活になる人も増えており、自治体によっては事情を踏まえた柔軟な対応をしてくれるケースもあります。判断に迷う場合は、市区町村の住民票担当窓口で個別に相談することが最も確実です。
また、介護保険サービスの利用にも住民票は深く関係します。要介護認定は住民票のある自治体で申請する仕組みのため、介護する側の住民票をどこに置くかによって、申請窓口や利用できるサービスの地域が変わることがあります。親と同じ自治体に住民票を移すことで、ケアマネジャーとの連携やサービス利用がスムーズになる場合もあります。
一方で、夫婦別居になると「表向きには別世帯」となることで、周囲から誤解を受けたり、扶養関係の整理が必要になったりすることもあります。たとえば、健康保険の扶養に入っていた配偶者が別世帯となったことで、扶養から外れて国民健康保険に切り替えが必要になるケースも少なくありません。
介護を理由とした夫婦別居では、住民票の問題は単なる手続きではなく、家計・サービス・人間関係すべてに影響する重要なポイントになります。「どちらが得か」だけで決めるのではなく、「実際の生活と介護が円滑に回るか」という視点で慎重に判断することが大切です。
夫婦別居と住民票はセットで考える必要がありますが、正解は一つではありません。親の状態、仕事、子ども、家計の状況を総合的に見たうえで、無理のない形を選ぶことが、長く介護を続けるうえで重要なポイントになります。
【親の介護】同居と別居はどう選ぶべき?
親の介護が必要になったとき、「同居すべきか、それとも別居のまま支えるべきか」で悩む人は非常に多くいます。どちらが正解というものはなく、それぞれに向いているケースと向いていないケースがあります。大切なのは、家族全員が無理なく続けられる形を選ぶことです。
同居を選ぶ最大の特徴は、常に親の様子を近くで見守れる点にあります。食事や服薬の管理、急な体調変化への対応などをすぐに行えるため、安心感は非常に高くなります。特に認知症が進行している場合や、転倒のリスクが高い場合は、同居の安心感は大きなメリットになります。
一方で、同居は介護する側の負担が非常に大きくなりやすい側面もあります。生活のすべてが介護中心になり、自分の時間や夫婦の時間がほとんど取れなくなることも少なくありません。厚生労働省の調査でも、家庭内介護者の多くが「強い精神的ストレスを感じている」と回答しており、介護疲れや介護うつにつながることが問題視されています。
別居を選ぶ場合は、親と距離を保ちながら介護サービスを活用するスタイルになります。デイサービス、訪問介護、見守りサービスなどを組み合わせることで、同居しなくても一定レベルの支援は可能です。介護する側は仕事や子育てを続けやすくなり、生活のバランスを保ちやすくなるのが大きな利点です。
同居と別居の主な違いを整理すると、次のような特徴があります。
| 項目 | 同居 | 別居 |
|---|---|---|
| 見守り | 常に可能 | サービスや訪問で対応 |
| 負担 | 身体・精神ともに大きい | 分散しやすい |
| 仕事との両立 | 難しくなる場合が多い | 続けやすい |
| 費用 | 生活費は抑えやすい | 交通費や家賃が増える場合も |
どちらを選ぶべきかを考える際に、特に重要になるポイントは次の4つです。
- 親の介護度や認知症の有無
- 介護する側の健康状態
- 仕事や収入の継続が可能かどうか
- 配偶者や子どもへの影響
たとえば、親が要支援や要介護1程度であれば、サービスを使いながら別居で支える選択が現実的な場合も多くあります。一方、要介護4や5になると、24時間体制での見守りが必要になる場面が増えるため、同居や施設入所との併用を検討するケースが増えてきます。
また、介護は一時的なものではなく、数年単位で続くことも珍しくありません。そのため、「今できるかどうか」だけでなく、「数年後も同じ形で続けられるか」という視点で考えることが非常に重要です。一時的な覚悟だけで無理な同居を始めると、後から心身ともに限界を迎えてしまうことがあります。
同居と別居の選択は、家族の形や価値観によって大きく異なります。世間体や「長男だから」「嫁だから」といった考え方に縛られる必要はありません。誰か一人が限界まで我慢する形ではなく、家族全体で支え合いながら続けられる方法を選ぶことが、結果として親にとってもいちばん安心な介護につながります。
介護できないと感じた時に考えるべきこと
親の介護を続けていると、「もうこれ以上は無理かもしれない」「自分には介護ができない」と感じる瞬間が訪れることがあります。そのように感じることは決して特別なことではなく、多くの介護者が一度は直面する感情です。大切なのは、その気持ちにフタをせず、早めに対処することです。
介護がつらく感じる主な理由には、次のようなものがあります。
- 睡眠不足や慢性的な疲労
- 仕事との両立が難しくなった
- 自由な時間がなくなった
- 感謝されないことへの虚しさ
- 金銭的な不安
厚生労働省の調査では、在宅介護を行っている家族の多くが「強いストレスを感じている」と回答しており、その中には抑うつ状態や体調不良を抱えている人も少なくありません。介護は気力だけで乗り切れるものではなく、心も体も確実に消耗していきます。
「介護できない」と感じたときに最初に考えるべきなのは、「自分が弱いからではない」という事実です。介護は一人で背負うものではなく、本来は社会全体で支える仕組みが用意されています。つらさを感じた時点で、すでに誰かの助けが必要なタイミングに入っていると考えてよいのです。
具体的に検討すべき選択肢としては、次のようなものがあります。
- 介護サービスの利用拡大
- ショートステイの活用
- 親族への協力依頼
- 施設入所の検討
訪問介護やデイサービスの回数を増やすだけでも、介護者の負担は大きく軽減されます。ショートステイを利用すれば、数日から一週間程度、親を施設に預けて休息を取ることも可能です。「休むために預ける」という選択は決して悪いことではなく、長く介護を続けるためにはとても重要な手段です。
また、「親族には迷惑をかけたくない」「自分がやらなければならない」と抱え込んでしまう人ほど、限界を超えてしまいやすい傾向があります。兄弟姉妹がいる場合は、できる範囲で役割分担をすること、金銭的な負担だけでも共有することなど、少しずつ協力体制を作ることが大切です。
どうしても在宅介護の継続が難しい場合は、施設入所という選択肢も現実的に考える必要があります。施設に預けることに罪悪感を覚える人も多いですが、専門職が常に見守ってくれる環境は、親の安全にとっても大きなメリットがあります。また、介護者が精神的に安定することで、結果的に親に優しく接する余裕が生まれることも少なくありません。
「介護ができない」と感じた時点で、すでに状況はかなり厳しくなっているケースが多いものです。その状態で無理を続けると、介護する側が倒れてしまい、結果として親も支えられなくなってしまいます。限界を感じる前、あるいは感じた直後こそが、生活の形を見直す大切なタイミングといえます。
介護は誰か一人の犠牲の上に成り立つものではありません。つらさを感じたときは、我慢するのではなく「助けを求めること」が、親にも自分にも最も優しい選択になるのです。
親の介護のために別居を選んだ場合の対処法と注意点

親の介護を理由に別居という選択をした場合、生活は大きく変わります。距離を取ることで心身の負担が軽くなる一方で、これまで見えなかった問題や新たなトラブルが生じることも少なくありません。特に、夫婦関係や親族との関係、法律上の責任などは、事前に理解しておかないと後悔につながりやすい分野です。ここでは、別居後に起こりやすい代表的な問題として「介護離婚」と「長男嫁の介護義務」について、現実的な視点で詳しく見ていきます。
介護離婚に発展するケースとは?
親の介護をきっかけに、夫婦関係が悪化し、最終的に離婚に至ってしまうケースは決して珍しいものではありません。いわゆる「介護離婚」は、どちらか一方に介護の負担が集中し、心身ともに余裕を失ってしまうことで起こりやすくなります。特に別居状態になると、生活リズムや価値観のすれ違いが表面化しやすく、関係が冷え込むリスクが高まります。
介護離婚に発展しやすい代表的なきっかけには、次のようなものがあります。
- 介護の負担が一方に偏っている
- 介護に対する考え方や温度差が大きい
- 経済的な不安や支出増加への不満
- 義理の親との関係悪化
- 配偶者から十分な理解や協力が得られない
特に多いのが、「介護している側が孤独を感じてしまう」ケースです。親の介護のために実家へ戻り、配偶者とは別居したものの、日々の生活は介護と仕事の繰り返しとなり、精神的な支えを感じられなくなってしまう人も少なくありません。その結果、「自分ばかりが犠牲になっている」という不満が積み重なり、夫婦関係に深い溝が生じてしまいます。
厚生労働省の調査によると、介護を理由に離職する人は年間およそ10万人前後にのぼり、その中には夫婦関係の悪化や家庭崩壊につながるケースも含まれています。介護と仕事、家庭の両立は簡単なことではなく、負担が長期化するほど心身への影響は深刻化します。
また、金銭面の問題も介護離婚に直結しやすい要素です。別居によって家賃や光熱費が二重にかかる、交通費や医療費が増えるなど、家計への負担は確実に増加します。介護費用をどちらがどの程度負担するのか明確な取り決めがないまま別居を始めてしまうと、「なぜ自分ばかりが支払っているのか」という不満が生まれやすくなります。
実際の事例として、次のようなケースがあります。妻が実家の母親の介護のために別居を決断し、仕事を続けながら通い介護をしていました。しかし、夫は介護にほとんど関与せず、生活費の負担についても協力的ではありませんでした。妻は次第に心身ともに疲れ切ってしまい、「このままの結婚生活に意味があるのか」と悩むようになり、最終的には離婚に至りました。こうしたケースは決して特殊なものではなく、全国で多く見られています。
介護離婚を防ぐために特に重要なのは、「介護は夫婦の共同課題である」という意識を共有することです。別居していても、介護の責任まで切り離されるわけではありません。定期的に話し合いの場を設け、介護の状況、金銭の負担、今後の見通しなどを共有することが、関係悪化を防ぐ大きなポイントになります。
また、自分たちだけで抱え込まず、第三者の専門家を間に入れることも有効です。地域包括支援センターやケアマネジャーに相談することで、介護サービスの調整だけでなく、家族間の負担の偏りについても客観的なアドバイスを受けることができます。
介護離婚は、「誰かが頑張りすぎた結果」として起こるケースが非常に多いものです。別居という形を取るのであれば、なおさら意識的に夫婦のコミュニケーションを取り続けることが、将来の大きな後悔を防ぐことにつながります。
長男嫁は親の介護を拒否できる?法律上の考え方
親の介護を巡って最も誤解されやすいのが、「長男の嫁だから介護をしなければならない」という考え方です。結論からいうと、法律上、長男の嫁に親の介護義務は一切ありません。これは現在の民法では明確に定められている事実です。
民法では、親を扶養する義務があるのは「直系血族および兄弟姉妹」とされています。つまり、介護や扶養の義務を負うのは、子ども本人や兄弟姉妹であり、その配偶者である「嫁」や「婿」には法的な義務は課されていません。この点は、多くの人が誤解している非常に重要なポイントです。
扶養義務については、法務省が公開している民法の規定でも確認することができ、親族間の扶養義務は血縁関係を基準として定められています。詳しい制度については、法務省の民法に関する解説でも公表されています。
それにもかかわらず、現実には「長男嫁だから」「同居しているから」「面倒を見てきたから」という理由で、事実上の介護者になってしまう人が非常に多いのが実態です。特に、昔ながらの家制度の意識が残っている家庭では、「嫁は介護をして当たり前」という空気が今も根強く残っているケースも少なくありません。
しかし、法律の観点から見ると、長男の嫁が介護を拒否したとしても、それだけで違法になることはありません。たとえ同居していた場合でも、介護はあくまで「協力」であって「義務」ではないのです。無理をして介護を続けた結果、心身を壊してしまえば、取り返しのつかない事態になる可能性もあります。
実際に起こりやすいトラブルとして、次のようなものがあります。
- 嫁だけが介護を担い、兄弟はほとんど関与しない
- 感謝されるどころか、不満や要求ばかりが増える
- 体調を崩しても「甘え」と受け取られてしまう
- 介護の方針について意見が通らない
こうした状況が続くと、介護そのものだけでなく、義実家との人間関係や夫婦関係まで悪化してしまいます。「断れない」「逃げられない」と感じてしまい、追い込まれていく人も少なくありません。
ある女性の事例では、結婚後すぐに義母の介護が始まり、夫は仕事を理由にほとんど介護に関わらず、実質的にすべての介護を一人で担っていました。数年が経過するうちに女性は体調を崩し、「もう限界」と感じて介護の継続を拒否しましたが、義家族から強い非難を受け、最終的には別居に至りました。このケースでも、法律上は女性に介護義務はなく、拒否は正当な判断でしたが、周囲の理解が得られず大きな精神的ダメージを受ける結果となりました。
長男嫁が介護を拒否する際に大切なのは、「感情ではなく制度を根拠に話すこと」です。「法律上の義務はない」「専門家にも相談している」という形で第三者の視点を入れることで、不当な責任を押し付けられにくくなります。また、地域包括支援センターなどに相談し、ケアマネジャーから家族全体に説明してもらうことも非常に有効な手段です。
さらに、兄弟姉妹が複数いる場合は、役割や費用負担を文書で明確にしておくことも重要です。「誰がどこまでやるのか」「金銭負担はどう分けるのか」といったことを曖昧にしたまま介護を始めると、後になってトラブルになる可能性が高くなります。
長男嫁が介護を拒否することは、決して冷たい行為でも非常識な行動でもありません。むしろ、自分の人生や健康を守るために必要な選択である場合も多いのです。介護は家族全体で支えるものであり、誰か一人が犠牲になる形では、長く続けることはできません。無理をしないための拒否は、結果として家族全員を守る行動になることもあるのです。
別居している親に介護の義務はある?

親と別居している場合でも、「介護の義務はあるのか」「何もしないと問題になるのか」と不安に感じる人は少なくありません。結論からお伝えすると、親と別居しているかどうかに関わらず、子どもには法律上の扶養義務があります。ただし、この扶養義務は「必ず同居して直接介護をしなければならない」という意味ではありません。
民法では、親を扶養する義務があるのは「直系血族および兄弟姉妹」と定められています。つまり、子どもは親を経済的・生活的に支える責任を負う立場にありますが、その方法は同居に限られません。金銭的な援助、介護サービスの手配、定期的な安否確認など、さまざまな形での支援が認められています。
この扶養義務については、法務省の民法解説でも「扶養とは生活を維持するために必要な援助を行うこと」と示されており、必ずしも身体介護を意味するものではありません。つまり、遠方に住んでいて直接介護ができなくても、別の形で支えていれば、義務を果たしていると判断される可能性があります。
実際の介護現場では、次のような支え方が多く見られます。
- 介護保険サービスの手続きや契約を子どもが行う
- 介護サービス費用や医療費を負担する
- 定期的に電話や訪問で状況を確認する
- 緊急時の連絡先や保証人になる
これらもすべて、親を支える「扶養」の一部と考えられます。物理的に離れていても、親の生活を成り立たせるために具体的な支援をしていれば、義務を放棄しているとはいえません。
一方で、経済的にも時間的にもまったく支援を行わず、連絡も取らず放置している状態が続くと、親や他の兄弟から「扶養義務違反」として問題視される可能性があります。ただし、扶養義務は「自分の生活を犠牲にしてまで果たさなければならないもの」ではありません。自分に収入がない、病気を抱えているなど、支援が難しい事情がある場合は、その事情も考慮されます。
また、「別居しているから介護の責任は一切ない」と誤解してしまうと、後々トラブルになることもあります。例えば、親の介護を一人で担っている兄弟が「なぜあの人は何もしていないのか」と不満を募らせ、金銭トラブルや相続トラブルに発展するケースは少なくありません。
別居している場合こそ、自分が何をどこまで担うのかを早めに整理し、兄弟姉妹と話し合っておくことが重要です。「現地での介護は兄が担当する」「自分は費用面を支援する」「手続き関係は分担する」といった形で役割を明確にすると、不要な誤解や対立を防ぎやすくなります。
別居していても介護の義務が完全になくなるわけではありませんが、その形は一つではありません。無理のない範囲で、継続できる支え方を選ぶことが、結果として親にとっても家族にとっても最も安定した介護につながります。
親の介護しないとどうなる?起こり得るトラブル
「親の介護は大変だから何も関わりたくない」「できれば距離を置きたい」と考える人もいますが、まったく関与せずに放置してしまうと、思わぬトラブルに発展する可能性があります。介護しないこと自体がすぐに違法になるわけではありませんが、状況によっては大きな問題に広がるケースも少なくありません。
最も起こりやすいのが、兄弟姉妹間のトラブルです。一人だけが親の介護を担い、他の兄弟が何も関わらない状態が続くと、「なぜ自分だけが負担しているのか」「不公平だ」という不満が積み重なっていきます。こうした不満は、やがて金銭問題や相続問題にまで発展することがあります。
例えば、介護費用や生活費を一人が立て替えていたにもかかわらず、他の兄弟が一切関与していなかった場合、相続の場面で「これまでの負担を考慮してほしい」という争いが起こることがあります。しかし、介護にかかった費用や労力が必ずしも相続に反映されるとは限らず、結果として深刻な対立を生むケースも少なくありません。
また、親本人との関係悪化も大きな問題になります。介護が必要な状態になっても子どもからの支援が一切なく、放置されていると感じた親は、強い孤独感や不安を抱えるようになります。その結果、認知症の進行が早まったり、うつ状態になったりすることもあります。
親の生活が立ち行かなくなることで、行政が介入するケースもあります。たとえば、十分な生活支援が受けられずに健康状態が悪化した場合、地域包括支援センターや福祉課が介入し、親族へ連絡が入ることがあります。その際、「これまで家族としての関わりがなかった」と判断されると、周囲から厳しい目を向けられることもあります。
さらに、経済的な問題に発展するケースもあります。親の年金や貯金だけでは生活が維持できなくなった場合、生活保護の申請が検討されることがありますが、その際には子どもの扶養能力が調査されます。子どもに一定の収入があると判断された場合、扶養照会が届き、金銭的な支援を求められる可能性もあります。
実際に起こりやすいトラブルを整理すると、次のようなものがあります。
- 兄弟姉妹との関係悪化
- 相続を巡る深刻な争い
- 親との信頼関係の崩壊
- 行政からの扶養要請
- 周囲からの社会的な批判
また、「介護しない」と決めたつもりでも、親の状態が急変したときには、最終的に連絡が来るケースが大半です。倒れて救急搬送されたとき、認知症が進行して施設入所の判断が必要になったときなど、重要な決断の場面では、たとえ疎遠であっても子どもが呼ばれることになります。そのときに何も知らず、何も準備していないと、より大きな混乱に巻き込まれてしまいます。
介護に直接関われない事情がある場合でも、「まったく何もしない状態」と「できる範囲で関わる状態」とでは、その後のトラブルの発生率は大きく変わります。定期的な連絡、最低限の金銭支援、行政や親族との情報共有など、小さな関わりを続けるだけでも、多くの問題は防げます。
介護しないこと自体がすぐに責任問題になるわけではありませんが、何も関わらない状態が続くほど、後から大きな負担やトラブルとして自分に返ってくる可能性が高まります。関わり方に正解はありませんが、「完全に切り離す」よりも、「無理のない距離でつながる」方が、長い目で見てリスクは小さくなります。
まとめ:親の介護のために別居を選ぶ際に押さえるポイント
親の介護を理由に別居という選択をする場合、最も大切なのは「別居は介護を放棄することではない」という意識を持つことです。距離を取ることで生活のバランスを保ちやすくなりますが、その分、関わり方や役割の整理をより丁寧に行う必要があります。
別居している場合でも、親に対する扶養義務は消えることはなく、支援の形が変わるだけです。直接の身体介護が難しくても、金銭面、手続き面、見守りなど、さまざまな形で関与することができます。無理にすべてを背負う必要はありませんが、「何も関わらない」状態にしてしまうと、後々大きなトラブルにつながる可能性が高まります。
また、親の介護に関わらないことで起こりやすいのは、兄弟姉妹との対立や相続トラブル、行政からの扶養要請などです。これらは感情の問題だけでなく、金銭や法的な問題に発展しやすく、関係修復が困難になるケースも少なくありません。
別居での介護を続けるうえで特に意識しておきたいポイントは、次の通りです。
- 自分が担う役割と限界を明確にする
- 兄弟姉妹と早めに話し合いを行う
- 金銭負担や手続きの分担を曖昧にしない
- 行政や専門機関の支援を積極的に利用する
- 親の状態変化に備えた連絡体制を作る
別居は決して逃げではなく、介護を長く続けるための現実的な選択肢のひとつです。しかし、その選択には責任と準備が伴います。勢いで決めるのではなく、自分の生活、親の状態、家族関係、経済状況を冷静に見つめたうえで、無理のない形を選択することが大切です。
親の介護は短期間で終わるものではなく、数年単位で続くことも珍しくありません。だからこそ、「今だけ何とかすればいい」という考えではなく、「この先も続けられるか」という視点で判断することが重要です。別居という形を取る場合も、家族全体が共倒れにならないためのひとつの手段として、前向きに捉えていくことが求められます。
- ・親の介護のために別居を選んでも、介護を放棄したことにはならない
- ・別居中でも子どもには扶養義務があり、支え方の形は一つではない
- ・介護に関わらない状態が続くと兄弟トラブルや相続問題に発展しやすい
- ・無理のない関わり方を家族で話し合い、長く続けられる形を選ぶことが大切
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